BOKETTO

ヨーロッパ一人旅の記録とひとりごと。

成人の日

 

今日は成人式。

もちろん、いつもと変わらない。

 

ジムに行く気分でもなく。

 

本屋に行く気分でもない。

 

気取ったカフェでもない。

 

 

とりあえず、外に出た。

 

 

 

雨。

 

 

マクドナルドに入り、

ホットコーヒーのSサイズ。

 

バッグの中のノートと本を出す。

 

本の名は「シンプルリスト」。

 

 

本に従い、自分についてのリストで

ノートを埋め尽くす。

 

 

 

今日、成人式に出てる大半の人に比べれば、

 

したいことや嫌いなこと、

居心地を感じる瞬間や場所、

嫌いな話題、付き合いたくない人、

自分に似合ったメイク、その他本当に細かいこと

 

「自分」のことはよく知っていると思う。

 

 

それでもやるべきことしたいことは

常に変わり続ける上に

案外自分では分かりきれていないもので

 

だから常にノートに書き出す。

 

 

 

飲み切れないコーヒーを片手にお店を後にし

慣れた景色を歩いていたら、

 

ロン毛のイカしたおじさんが

前から過ぎ去った。

 

 

 

いわゆる、

「ホームレス」なんだけど。

 

なんだかアイヌ人のようで

その独特の雰囲気がロックで格好良く見えた。

 

 

過ぎ去ったアイヌ人の彼を見ようと

後ろを振り返ると、自動販売機の横。

 

に置いてある数本の缶を手に取り

空を確認し、彼はまた歩き始めた。

 

 

 

心がザワザワした。

 

 

というか、居ても立っても居られなくなった。

 

 

 

何に対してもやる気の起きない

モヤモヤした今日だったはずが、

一瞬にして「やるべきこと」で

心の隅々まで充満して溢れかえっていた。

 

 

映画の中のヒロインが急に雨の中走り出すみたいに

他人にはよく分からないのだけど

明らかに本人の中では何か確信したようだった。

 

 

 

「ちょうどいい。このコーヒーあげよう。」

 

 

右手に持たされている冷めたコーヒーに

一瞬意識がいく。

 

が数秒留まり、やめる。

 

 

 

気がつけば、

彼が先ほど漁った缶が立ち並んだ横。

 

赤い自動販売機の

「あったかい」ゾーンが視界を支配している。

 

 

そこに綺麗に配置された

コーヒー達としばらく見つめ合う。

 

 

しかし、彼が漁っていた缶はジュースだった。

 

 

 

コーヒーは飲めるだろうか?

 

 

ブラックか?甘めか?

 

 

いや量が多い500mlの方がいいか?

 

 

 

 

考えていればいるほど

 

彼はどんどん遠ざかって行く。

 

 

そしてまた道端に置かれた缶を

一つ一つ優しい手つきでそっと浮かせては

そっと元の場所に置いている。

 

 

 

ここは微糖だ!

 

 

 

ものの一、二分だったんだろうが

脳みそはとんでもない数の回転をしていただろう。

 

 

この寒い雨の日に、何本の缶を手にしたら

「誰かの飲み残し」に出会えるか。

 

終わりの分からない長い歩道の途中に

「知らない誰か」から渡されるコーヒー。

 

それが甘く優しさを感じるものがいいのか、

苦く深く染みるブラックがいいのか。

 

はたまた、その両方を備えた微糖がいいのか。

 

 

 

そんな苦悩の末に選ばれた、 

左手が持つ買ったばかりのコーヒーは

 

右手に持っていた自分のコーヒーと

打って変わって暖かかった。

 

 

さっきまでピアノジャズを聴きながら

ゆっくりと歩いていた足は急に目的を見出し

地面を蹴るように歩き出す。

 

 

 

後ろから現れたらこわいよな?

 

 

と、ここでも「名前も知らない彼」のことを想う。

 

 

 

そして彼の背後についたところで、

コーヒーを右手に差し替えひゅっと突き出した。

 

 

 

すぐに彼は気づき、

 

「ありがとう!!!」と言った。

 

 

彼が何回ありがとうと言ったかは

あまり覚えていない。

 

 

少しくさかったのは

きっと彼の匂いではなく

目の前の怪しいガラクタ屋の匂いだろう。

 

 

なぜこんなにも衝動が底から湧き上がったのかは

自分でさえ分からないが

 

その時の自分にはそれだけしか

選択肢は見えていなかった。

 

 

すぐに蓋を開けてコーヒーを喉に流し込む彼。

 

 

それを見終えたころ、

 

ロウソクの火がふっと誰かに消されたように

やっと心が落ち着きを戻し、

 

さっきとは違う「何か」でまた

心が隅々まで充満されたのに気付いたので

お別れをした。

 

 

 

今思い出したら、

 

「またね。」と言った自分がいた。

 

 

 

そしたらすっかり

自分の中の曇りは晴れていて、

体は気持ちの良い雨に沢山打たれていた。

 

 

 

その後、

無性に「君の名は。」の主題歌が聴きたくなり

雨に紛れて泣いていた。

 

 

何でもなかった一日が

彼のお陰で意味の持てる一日になったこと

 

彼は知らない。

 

 

 

 

そして彼がホームレスかどうかなのかも

自分が決めつけたただのレッテルである。

 

 

ロン毛でジャンパーを何枚も羽織り

缶を漁っている人間が

すべてホームレスだとは限らない。

 

ひょっとしたら

 

豪華なマンションに帰る途中だったのかも

真実は分からない。

 

 

 

 

 

 

そんな今日。

 

 

 

 

ポイ捨てやゴミを道端に置くことは

どんな時だろうとしないのだけれど

 

 

今日だけそっと

 

まだ入っている“アイスコーヒー”を

赤い自動販売機の横に、置いてきた。