BOKETTO

ヨーロッパ一人旅の記録とひとりごと。

ロエベ

 

愛していた財布が消えた。

 

中の現金はどうでもいい。あの財布が誰かに取られたことがショックで病む。

 

仮に30万入っていたとしても、それはまた稼げば良い。また手に入る。

 

あの誰よりも優しい鞣し革だったあいつとの別れが辛くて仕方ない。

 

いつも磨いてあげるほど大好きだったのに、あそこに忘れてしまったのは僕だ。

 

警察に確認をしたら、忘れた場所と全然違うところで中のポイントカードだけ発見されたらしい。イコールもうスられたとしか考えようがない。

 

ちょっとヤバいのは、中に入れていたカードどっちゃらもそうだけれど、他の物だ。

 

渡すはずだった愛に塗れた手紙と、おれの満面の笑みの写真を入れていた。

 

それを読んで、見て、そんな財布を使えるだろうか。

 

人は友達といる時にはついふざけて恥ずかしがって良心も投げ捨ててしまうから、あの手紙もおれの満面のスマイル写真も友達同士で爆笑物にしてくれたんだろうか。

 

だとしたらそれはそれで光栄だ。

 

 

拾ったのが一人だとしたら。

 

あの手紙と写真とバストサイズの書いた下着屋さんのカードを見ては、おれなら使えない。いやクレジットカードのフルネームを見ただけでも使えない。

 

その人がどんな人だか想像できてしまうからだ。

 

カードの名前が“TAKUYA KIMURA”だったとて、その人がキムタクのファンでなければホイホイ使っちゃうんだろう。

 

キムタクのファンでも、それを喜んでみんなに自慢する奴もいる。

 

 

愛着のある物を失くすのがこんなに辛いなら、ぜんぶ愛着のない物にしてしまいたいけれど違うんだ。

 

失ってこんなに悲しい物が、人が、いることはある意味ステキなことなのだ。

 

いや、辛ぇわ。まじで。

 

死んだペットが死んだ時、「飼わなければ良かった」と思うのはうんこだ。

 

拾ったのは想像力のない人間か。

 

財布が帰ってきて、そいつからの手紙と満面のスマイル自撮り写真なんて負けじと入れてくれてたら、そのユーモアは大いに尊敬する。

 

 

プライベートの蓋をことごとく知らない誰かに開けられてしまった。

 

警察よ、頼むから中身は全部いらないから財布だけでも取り返そうぜー。

 

おれにしては、あの財布にしてから初めて数ヶ月も財布を無くさないという新記録を叩き出したが、やってもうた。

 

いつも動こうとする前は、何か起きる。